腫瘍が大きくなればなるほど治療はもっともっと困難になります。それ故早期の診断,早期治療が不可欠であります。現存する三つの治療選択肢;経過観察,手術治療、定位放射線治療をエビデンスに基づき吟味選択する必要があります。また、それぞれの長所と短所を十分に理解した上で組み合わせる集学的治療が10-20年の治療計画には不可欠と考えています。代表的な長期成績の比較により、治療選択が自ずと明確となることでしょう。

エビデンスに基づく治療選択


聴神経腫瘍

腫瘍サイズ

経過観察
(Toronto 72例/7年)

定位放射線治療
(mayo clinic 288例/15年)

外科手術
(中冨執刀63例/3年)


腫瘍摘出度・
サイズ

小型、中型
(3cm未満)

不変42%または
増大
39%

不変・縮小;85%15%
一時的増大

ほぼ100%摘出(全平均99%)

大型(3cm以上)

さらに
増大しやすい

適応外
(癌化
1/1200

現在95%摘出達成(全平均87%)


顔面神経機能

小型、中型
(3cm未満)

不変。

麻痺無し96%
麻痺は回復しない。

直後から麻痺無し95%
全例
1年後に100%回復

大型
(3cm
以上)

最終的に悪化し
回復しない。

適応外

直後から麻痺無し94%
全例
1年後に100%回復


聴覚機能

小型、中型
(3cm未満)

ほぼ全例徐々に
悪化
し回復しにくい。

有効聴力維持;63
悪化;
37%、回復しない

有効聴力維持;71%
悪化;
29%、回復しうる

大型
(3cm以上)

全例悪化
回復しない。

適応外

有効聴力維持;67%
悪化;
33%、回復しうる


経過観察のエビデンス
カナダからの大規模臨床試験報告があります(図左端の列)。72症例の聴神経腫瘍患者に対し,保存的経過観察により平均約7年フォローアップした結果です。内耳道限局型腫瘍(IACタイプ) の平均増大率は,0mm/年に対し小脳橋角部腫瘍(CPAタイプ)は1.3mm/年でありました。結果的に何らかの治療を必要とするまでに症状が進行した症例郡では,腫瘍の平均増大率は3.1mm/年でありました。最も重要な点は,IACタイプもCPAタイプもどちらも純音聴力検査で平均5デシベル/年ならびに語音明瞭度検査で平均6%/年ずつ悪化し続けて行き待機中に聴力を失うことが分かりました。
( Clinical Otolaryngol.2004 29, 505-514. Raut et al.)



定位放射線治療のエビデンス
定位放射線治療とは,皮膚切開を行なうことなく1回の高度に凝縮された精密なデザインに基づく放射線照射を用いて、腫瘍を焼却し腫瘍の成長を妨げます。どの定位放射線治療も効果が表れるまで12カ月から24カ月の待ち時間を要します。腫瘍は直後から治療効果を呈することはなく,徐々に増殖が止まり一定の確率で腫瘍縮小効果を得ることができます。聴神経腫瘍は良性の腫瘍であるために放射線治療を第一選択としてはおすすめしていません。その理由として放射線治療は腫瘍が消失することはありません。メイヨクリニック288症例のシリーズでも(図中央の列)、聴力低下喪失のリスクが40%,顔面神経麻痺のリスクが5%そしてその他の癌化も1/1200の率でリスクがあります。放射線治療の後であっても、10-15%の方は引き続いて腫瘍の増大を示すことがわかっておりその中の一定数は外科手術を必要とします。その場合外科手術は非常に困難なものとなります。一見低侵襲な魅力的な治療ですが、腫瘍サイズが3センチ以上の場合あまり効果がないことが分かっており大型の腫瘍には適用がありません。現段階では,定位放射線治療をお勧めする多くの方は,高齢である場合か、健康状態に重大な問題があり全身麻酔をかける場合にリスクが高いと考えられる場合です。ちなみに視神経と聴神経は最も放射線に弱く,耐用線量は12グレイ,脊髄はもっと弱く10グレイといわれこれらの治療で簡単に痛んでしまいます。
(Neurosurgery 2006 58 (2), 241-248. Pollock et al.)



外科手術のエビデンス
外科手術治療の最大の役割は,増大した腫瘍による脳幹圧迫を解除し,進行性の神経損傷を防ぎ生命の脅かす危険をゼロとすることにあります。第二に顔面神経機能維持すること,そして第3に社会的に有益な聴力を腫瘍がある側で維持することにあります。顕微鏡下手術はすでに40年の緻密な切磋琢磨を経た最も確立した治療と言えます。持続神経刺激モニタリングによる機能温存成績を示します(図右端の列)。腫瘍サイズにかかわらず機能的顔面神経保存率;100%、有効聴力保存率;75%、腫瘍摘出率95%以上を現在達成しておりますので、少なくとも現時点では、根治性の点からも機能温存の点からも外科治療が最善と考えております。

聴神経を可能な限り全例温存した場合の長期の腫瘍再発
聴神経を可能な限り全例温存した場合の長期の腫瘍再発については、メイヨクリニックにおいて過去20年間,505症例余の後頭蓋窩法による聴神経腫瘍手術の長期成績解析を中冨自身が行いました。平均フォローアップ期間は9.9年間でした。平均腫瘍長径2.5cm。478症例(95%)で全摘出が可能で,全摘出後の再発は,平均5.8年のフォローアップ時点で26症例(5.4%)観られました。一例を除くすべての症例で再発は内示道内から発生していました。対して27症例が不完全摘出;亜全摘出(95%未満摘除)または部分摘出(90%未満)に終わり,平均3.8年のフォローアップ時点で16症例(59.3%)で再発が観られました。興味深いことに再発は,不完全摘出の場合,脳幹側からも内耳道内のどちらからも発生していますので,全摘出後の再発とは際だった相違点があります。やむなく不完全摘出とした場合には,術後3から5年の間に残存腫瘍に対する定位放射線治療あるいは聴覚再建手術と複合した段階的手術治療などの集学的治療が必須であることを実証しています。

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